経営者ナビ >> 決算書の読み方 >> 黒字倒産3大事例・傾向と対策の解説
経営者を目指されている方であれば「黒字倒産」という言葉を一度は耳にされたことがあるかと思います。
黒字倒産とは文字通り会社に利益が出ている、いわゆる黒字の状態であるにもかかわらず不渡りを出したり借入金の返済や取引先への支払いが不能となり倒産してしまう事を言います。
会社の決算書を見る限りは大きな利益をあげて黒字を出している。
しかし、会社内の実情は現金が乏しく決算書の数値とはかけ離れて緊迫した状態にあるのが黒字倒産に陥りやすい会社の典型的なパターンです。
法人で現金が不足している時は黒字倒産は他人事では無く、決して珍しい状況でもありません。
特に小さな会社の場合は、社長個人が法人に貸す形で乗り切る場合は多くなりますが、個人の現金が不足している時は倒産が免れないケースもあります。
今回は、黒字なのに会社が倒産する仕組みについて確認しておきましょう。
目次
黒字倒産の仕組みは、簡潔に表すと現金がショートし不渡りを出す状況となるケースです。
こうして考えると、黒字であっても赤字であっても現金が途絶えると会社は倒産する事になります。
例えば融資が受けられなくなり、支払いが行えない。もしくは納税ができない。
キャッシュフロー経営が重要とされるのは、このように現金が会社の存続に大きく関与するためなのです。
黒字倒産が発生する原因には幾つかの要因がありますが、黒字倒産をしっかりと理解するためには、まず決算書の数字について学習しておく必要があります。
法人の場合は毎年、自社の期首に合わせて決算書を作成します。
まずこの決算書に表示される数字は「発生主義」で取引内容が記録されている点を把握しておく事が重要です。
現在の日本の法人会計で利用されている会計では、この「発生主義」を採用し決算を行う事になっております。
発生主義とは収入や支出を発生させる事実が起きた時に、会計処理を行う事を言います。
売上が発生した時には売上計上、仕入れを行った場合は仕入れ時に資産計上、必要経費が発生した場合は発生時に費用として計上します。
ごくごく当たり前の事のように思えますが、この発生主義による会計では、会社の現金の動きと決算書に記載される数値は異った数値となってくるケースが出てきます。
会計法では、この発生主義が会計や簿記を混乱させる最大の元凶とも言われている為、この点については必ず明確に理解しておきたいところです。
それでは、続いて黒字倒産に至る具体的な3つの事例について確認していきましょう。
黒字倒産が発生する最大の原因は前述した発生主義が大きく関与しております。
ここでは解りやすく幾つかの事例に分けて黒字倒産に至るケースについて考えてみましょう。
尚、黒字倒産を興す主なケースは大きく分けて3つに分類することができます。
ここからはひとつずつ各事例について解説します。
3月決算のA社の事例です。
今季の売上目標1億円まで後2000万円という状態。
最後まで粘り続けて営業を続け3月末ぎりぎりに2000万円の売上にこぎつけ何とか目標を達成することができました。
しかし、売上を何としてもあげるために支払は「受取手形」でもらい、実際に商品の入金が入るのは3ヶ月先という契約です。
このA社の場合、発生主義に基づき取引が発生した今期中の売上に2000万円が加算されます。
しかし、実際に会社に商品のお金が入金されるのは3ヶ月後である為、決算後の法人税の支払いが困難になるケースが想定されます。
法人税の計算は税引前当期純利益を基に計算を行いますが、やはり入金のない2000万円の売り上げは税金に大きく影響します。
このA社の場合は例え今期の決算が黒字決算であったとしても法人税の支払期限までに「資金調達」ができないようであれば黒字倒産に至る可能性があるという事になります。
税金は借入金などよりも融通がきかず何よりも優先される為、極端ではありますが心構えとしては、最も恐ろしい取り立てであると認識しておいても良いでしょう。
日用雑貨の卸売販売を行なっているB社の事例です。
B社は銀行への毎月の返済が200万円ありますが、今まで一度も未払いや遅れもなく、少人数の会社ながらも毎年僅かに黒字決算を続けております。
しかし今期は取引先も増加し売上も順調に推移しており、大きな仕入れを行うことにしました。
仕入れ金額は1000万円で内訳は現金500万円、買掛金500万円です。
販売は想定通りやはり好調で合計1500万円の売上となりました。
尚、売上の内訳は現金500万円、売掛金1000万円です。
今回の取引だけでB社は500万円の利益をあげた計算になります。
収益1500万円-費用1000万円=利益500万円
売掛金が大きくなってますが、まずまずの成果です。
続いて、毎月の銀行への借金の返済です。
借入金の返済は経費とはなりませんので「利益」から返済しなくてはいけません。
今回の利益は500万円ですから、この500万円の利益から現金で200万円の返済を行います。
しかし、帳簿上の利益は500万円となっておりますが、この利益は全て「売掛金」であり「現金」ではありません。(下記表参照)
掛金(売掛金・買掛金)と現金の推移 | ||
---|---|---|
収益-費用=利益 | 現金の推移 | 掛金の推移 |
収益1500万円 | プラス500万円 | プラス1000万円 |
費用1000万円 | マイナス500万円 | マイナス500万円 |
利益500万円 | 0万円 | プラス500万円 |
その為、B社はあわてて200万円の「資金調達」を行い窮地を凌ぐことができました。
もし、資金調達ができずに返済が不能となればB社は黒字であっても倒産となります。
前項でのB社は何とか資金調達が間に合い、黒字倒産を免れることができました。
そして翌月となり、今月は先月仕入れを行ったC社への買掛金500万円の支払いと、売掛金1000万円が現金で入金されます。
やや、苦しく思えた経営ですが、今月は1000万円の現金収入がありますので500万円の「買掛金」の支出を行なっても、現金で500万円の利益が見込めるため銀行への返済も安心です。
しかし、入金期日を過ぎても売掛金1000万円の「大口顧客D社」からの入金が確認できません。
慌てて連絡をとってみると、D社は先月に続いて今月も立て続けに「不渡り」を出し既に倒産手続きに入っていることがわかりました。
しかもD社の資産には全て銀行の「抵当権」が幾重にもついており、資金を回収できる見込みは絶望的です。
その為、B社は今月、C社への買掛金500万円の支払いと銀行への200万円の借入金の返済の為の資金調達を行わなくてはいけません。
もし資金調達や支払い条件の変更などの交渉がまとまらない場合は大口顧客のD社と同様にB社も倒産することになります。
また、B社が支払不能になるとB社からの入金をあてにしていた仕入先のC社も倒産の危機を迎える可能性が出てきます。
このように1社の倒産を発端として取引先企業が続けざまに倒産していく事を「連鎖倒産」と呼びます。
こうして見ると帳簿上は黒字であったとしても経営者は安心していられないという事が解ります。
黒字倒産は常に経営者の身近に潜んでいる事を覚えておきましょう。
黒字倒産に至る会社が毎年何社もある事実からも会社は黒字だからといって倒産しないという保証が全くない事も理解できたかと思います。
逆に、毎年のように赤字を計上している会社であっても、決算書の数字から会社の状況を把握できる社長が経営している会社であれば、倒産のリスクは低く抑えることができるでしょう。
尚、資本金1億円以下の中小企業の場合は取引先の倒産時に無担保で融資を受けることが出来る経営セーフティー共済(倒産防止共済)と呼ばれる商品がありますので経営者の方は一度加入を検討してみると良いでしょう。
経営者の多くは黒字が見込める年度になると、節税対策について考えるものです。
節税対策は経営者にとって必ず学習すべきテーマでもありますから節税対策の基本を学習しておくことはとても重要であるのは間違いありません。
しかし経営者としては、会社を存続させていく事もひとつの重要なテーマです。
ここまでの解説を見ても解る通り、倒産に至る原因には「売掛金」や「買掛金」、そして「借入金」などの幾つかのキーワードが含まれていることが見えてくるはずです。
ですから常にこれらのキーワードに該当する取引項目に眼を光らせ、いざという時には社内の現金で対応できる状態を整えておくことが会社を存続させる重要な対策となります。