経営者ナビ >> 会社の税務・節税 >> 社長の医療保険は法人で加入すべきか?
会社の節税対策の代表的な手法のひとつに生命保険の掛け金を活用した節税が古くから活用されてきた節税方法のひとつです。
生命保険を活用する主な節税法の代表格は保険を活用した退職金の積立であることは言うまでもありませんが、医療保険に関しては保険の特性からも法人で加入するケースと個人で加入するケースの双方のメリット・デメリットを把握した上で保険の加入を検討する必要があるので注意が必要です。
経営者は、公務員や会社員と比較すると明日さえもどうなるか解らない立場であることは把握しておく必要があります。
その為、ある程度仕事が板についてくると保険の加入について検討する時期が必ずやってきます。
そして、個人名義の加入に加えて法人名義での保険加入についての知識も必要になってきます。
これは、税務上の保険金の取扱いが異なるためですが、経営者の方、もしくはこれから経営者として独立する方は確実に覚えておくべき知識であると言えます。
どちらがリスクヘッジになるかだけでなく、どちらが節税として有効かなど知っているか知らないかだけでも大きな違いです。
私は個人名義の保険に加入していましたが、後に節税対策に興味を持つようになり片っ端から保険を調べ、最終的に個人、法人両方の保険に加入しました。
ここからは、社長が加入する医療保険を「社長個人名義」で保険に加入するケースと「法人名義」で保険契約を行なうケースに分けて、その特徴について確認していきます。
目次
まず医療保険に加入する際は、医療保険を活用する本来の目的について検討しておくことが大切です。
医療保険は、社長が病気や入院などでの万が一の事態に備えて医療費の負担を軽減する目的で加入する保険です。
特に少人数で経営されている小規模企業の場合は社長のワンマン経営が根づいている会社が大半であるというのが実情でしょう。
その為、社長が現場から数週間離れてしまうだけで会社に大きな損失を与える可能性があることも事実です。
過労で倒れてしまった社長が入院している病院に社員がかけつけ仕事の相談に行く。
これでは、病院で体力の回復をはかる事もままなりませんし、社長室が病室に変わっただけという事態になってしまいます。
このように、社長個人の力が突出している、もしくは社長そのものが会社のブランド化しているような企業であれば、社長がもしもの場合であっても最先端の医療を受けられるように医療保険でリスクヘッジを測っておくことは大変重要です。
社長という立場にこれからなろうと考えている方は、会社の経営者として一定額の保険に加入しておくことは経営者としての最低減の義務と言えるかもしれません。
特にデザイナー事務所やコンサルティング事務所など、個人の能力を求めてクライアントが集まるような小規模企業では、社長の保険への加入は会社設立当初から検討すべき課題であるとも言えるでしょう。
個人事業主から法人化を図る際や、会社員で実績を積み、会社を新規設立し独立を果たす際は事前準備段階から医療保険に関する知識を学習しておくことをお勧めします。
尚、経営者の医療保険の加入に関しては社長個人で保険に加入するだけでなく、法人名義で医療保険に加入することも可能である点を把握しておく必要があります。
そこで気になる点がおそらく、どちらで加入したほうがメリットが高いのか?という点ではないでしょうか?
一般的に法人で生命保険に加入した場合は、掛け金の半額が経費扱いとして損金計上できるため、法人の節税としてのメリットが高いように考えられがちです。
しかし、実際に支払われる保険料の支払先と、その課税状況を考慮すると各企業の状況によって保険の加入者を検討すべきであり、保険金の支払い先を自らコントロールしていく経営能力が求められるようになることが解ります。
このように言えば何やら難しい事のように感じられる方も多いかもしれませんが、経営者の医療保険で覚えておくべきポイントは保険金にかかる税金の仕組みに集約されます。
では、ここからは医療保険を法人名義で加入する際のメリットと、個人で加入する際のメリットについて確認していきましょう。
法人名義で医療保険に加入する最大の利点は前述した通り、医療保険の掛け金の半額が損金計上できる点です。
以前は実質掛け金のほぼ全額を損金計上できるがん保険などもありましたが、現在はがん保険、養老保険ともに半額計上までが基本です。
しかし、法人名義での保険加入のメリットは実はこれだけではありません。
例えば、社長がまだ若く健康状態も優良であり、長期間に渡って病気や入院などが成されなかった場合。
このような場合は、本来社長個人の「税引き後の手取り給与」から支払われる予定であった保険料が、全額法人払いとなっている為、社長個人の給与からは一切保険金を負担せずに済んでいる事になります。
個人の保険料の支出は一部が保険料控除の対象とはなっておりますが、その控除金額はとても小さくなっております。
その為、一般的に給与所得が大きく保険の掛け金も大きくなりがちな社長が支出する保険料を保険料控除枠で控除しきれることはありません。
もし引退まで何も病気をしなかった場合を仮定すると、所得税・住民税を支払った後の税引き収入から累積で◯千万円の支出を行なっていた計算になるでしょう。
社長個人の収入は「累進課税制度」により給与額が上がるほど納税額も高くなるため、税引き後の収入から支払われる保険料が大きすぎるというのは大きな経済的デメリットとなり得ます。
しかし法人名義で生命保険や医療保険に加入していれば、これらの保険料掛け金は全て会社負担となるため、社長個人の懐に大きな打撃を与えることはありません。
将来の病気や怪我などは誰にも予測できるものではありません。
また、保険はその名称からも解る通り、いざという時の為の保全措置的な役割を目的として加入する金融商品でもあるため、予測不能な病気などに対する安心感を得るための保険です。
世界でも前人未到の高齢化社会へと突入する日本で経済活動を行うという観点からみると、社長個人の保険加入は固定支出ととらえることもできます。
しかし、現実的に統計的な分野で見てみると多くの経営者が大きな病気にもかからずに引退を迎えているという実情もあります。
このように最終的に何もなかった場合は、社長個人で保険に加入していたケースと法人で保険に加入していたケースでは経済的に大きな差となって現れている点を医療保険加入前に把握しておく必要があると言えるでしょう。
サラリーマンやパートなどの社員は個人名義で医療保険に加入する事は当たり前の事です。
一般的には会社から源泉徴収された後の税引き後の収入から保険料掛け金を支払う事は当然であり、これは社長であっても同じです。
但し、社長の場合は前述した法人名義による保険加入のメリットなどを考慮し法人名義で保険に加入するケースも多いというのが実情であるというだけのことです。
尚、社長が個人名義で保険に加入する最大のメリットは、病気や入院などで医療費がかかり保険の適用を受けた際に、その支払われる保険料は全額、「非課税収入」として税金がかからない点にあります。
毎月のように保険料を支出し、いざ入院したらその保険料にまで税金が掛かるようでは実際に支払った病院代などの医療費を補填できなくなってしまう可能性があります。
当然と言えば当然の事に思えるかもしれませんが、法人名義で保険に加入している場合は、その保険料は会社の「雑収入」として収入に計上されます。
雑収入は営業以外の収益であり、法人税の対象となる収入として扱われます。
その為、その年度の営業成績が黒字の企業であれば「雑収入」として保険料に対しても法人税、法人住民税などを支払う納税義務が生じることになります。
この保険料が課税対象となる法人契約は、法人名義で医療保険に加入する最大のデメリットであると言うこともできます。
では、続いて法人名義の保険金の税務上の流れと保険金の仕訳について確認していきましょう。
法人名義で保険に加入するデメリットは、保険会社から支払われる保険金は法人の課税対象収入になり得るという点です。
これは、保険の契約名義が法人である以上、保険金の支払先もまた法人口座となっている点に大きな原因があります。
この仕組みが見えてくると、実際に社長が病気などで入院した場合に社長個人で負担した保険料は「保険会社⇒会社⇒社長」の流れで保険金が支払われる仕組みであることも自ずと見えてきます。
最終的に法人名義で保険に加入した場合でも社長個人が負担した医療費は保険会社から保険金を受けとった自分の会社から支払われる事になります。
しかし、この会社から医療保険の保険金を受け取る場合は、社長個人の給与扱いとなる点を把握しておく必要があります。
多くの社長は顧問会計士や顧問税理士と納税計画を建てながら会社から得る収入を自らコントロールして年間の収入金額を決定しているものです。
しかし、医療保険の保険金は「給与扱い」となる為、もし実際に保険金の支給を受けた場合は年収が変化するため、所得税も住民税も当然多くなります。
個人で契約している場合に受け取る保険料は全額非課税ですが、法人名義契約で社長が保険料を受け取る場合は、まず会社が雑収入として課税され、かつ個人が給与して課税される仕組みとなっているのです。
社長が保険の契約を検討する場合は、このような税制の仕組みを検討した上で保険商品を選択し、契約者を法人とするのか、それとも個人とするのかを決定していかなければいけないのです。